アザーンから即興演奏までアラブ音楽入門
飯野 りさ:著
発行:スタイルノート
この版元の本一覧
A5判 160ページ 並製
定価:2,000円+税
ISBN978-4-7998-0170-3(4-7998-0170-8) C1073
在庫あり
奥付の初版発行年月:-0001年11月
書店発売日:2018年09月21日

紹介

アラブ世界、特にシリアやエジプトを中心にした東アラブ地域の伝統的な音楽の基礎を紹介するための入門書。サンプル音源を聴きながらこの本を読み進めると、読み終わるころには初歩的なタクスィーム(即興演奏)の聴き方のコツがわかりはじめてくる。伝統的にアラブ音楽は和声を使わず、旋律のみが重視される旋律様式(旋法)。こうした音楽は今日の日本ではあまり馴染みがないため、まず簡易な旋律の歌を用いて学習し、伝統的なアラブ旋法音楽の特徴を少しずつ体験できるように工夫した。また、アラブ音楽の特徴である即興演奏の特徴や聴き取りのコツも指南。アラブ音楽の「通」になれる本。登場する歌は出版社のサイト上で聴けるようになっている。

目次

はしがき
本書で使用する表記について
音名の表記について
録音サンプルの使い方について
●はじめに
 ・本書のねらい 基礎から初歩的な即興演奏まで
 ・本書の構成
 ・本書の使い方
 ・注意事項 「マカーム」は保留、「タラブ」を感じよう
 〈コラム〉ラテン文字表記〜学術系と一般系
●もう少し詳しく知りたい方向けのページ
 ・紹介する音楽について
 ・東アラブ地域の古都アレッポ
 ・夕べの会サフラと伝承歌謡
 ・アラブ世界の音楽 ジャンルとしての伝承歌謡の位置づけ
 〈コラム〉アラブの春 抗議の言葉を運ぶ旋律

【第1課】雰囲気を味わおう はじめの一歩
 1.アザーンで体験する「ヒジャーズ」な雰囲気
〈コラム〉アザーンは音楽ではない
 2.ヒジャーズ旋法のカッド《フォーギン・ナハル》
 3.音楽学的説明その1 使用音階
〈コラム〉多様な人々の住む多言語な歌
●もう少し詳しく知りたい方向けのページ
 ・旋法とその名称〜名前とともに音的響きをイメージする

【第2課】二つ目の旋法に挑戦しよう 中音域タイプの旋法
 1.二つ目のアザーン ラースト・カビール旋法
〈コラム〉フレットのないウード
 2.ラースト・カビール旋法についての詳しい説明
 3.ラースト・カビール旋法のカッド
〈コラム〉伝承歌謡のオリジナルとは?

【第3課】旋法分類の基礎知識を整理しよう 低音域タイプの旋法
 1.三つのタイプ 各旋法にもっとも重要な旋律的響きの音域
 2.低音域タイプ:ラースト旋法
 3.音楽学的説明その2 旋律行程とムワッシャフの歌謡形式
〈コラム〉サルマーとは誰?
 4.名前のついている音的響き 音名、小音階名、旋法名
●もう少し詳しく知りたい方向けのページ
 ・アラブの基本音階と音名
 ・小音階の種類と名前
〈コラム〉口伝の伝承歌謡、変わる部分、変わらない部分

【第4課】即興演奏を体験しよう 高音域タイプの旋法
 1.高音域に支配音がある旋法 マーフール旋法
 2.器楽の即興演奏「タクスィーム」を体験 同じ旋法でも解釈には幅がある
〈コラム〉アレッポの伝統を支えたサフラ
 3.ヒジャーズ・カール・クルド旋法の旋律
 〈補足説明〉基音の移動 歌手の声域や楽器の音域にあわせる

【第5課】伝統的な組曲形式を学ぼう
 1.類縁旋法群について バヤーティー旋法群の例
 2.バヤーティー旋法群による組曲
 3.古いけれど「古臭く」はない 伝統的な組曲形式
 4.旋法の名前は イメージと記憶のための鍵
 5.終わりに 単語「マカーム」の扱い方について
〈コラム〉ウード演奏、今昔

あとがき

【付録】
 1.録音案内
 2.本書で取り上げた主な歌手・音楽家
 3.基本旋法リスト
 4.用語集

歌のタイトルによる索引
引用文献リスト・引用録音資料リスト

前書きなど

 本書には先に出版された姉妹本『アラブ古典音楽の旋法体系〜アレッポの歌謡の伝統に基づく旋法名称の記号論的解釈』(2017年、スタイルノート)があります。同書はこれまでの研究成果をまとめた学術書であったため学術的議論を優先させざるをえず、初心者向けの体裁を取ることができませんでした。そこで、その姉妹本の成果に依拠しつつも、初歩から知りたい、体験してみたい方向けに執筆されたのが本書です。
 シリアの古都アレッポに残る歌謡の伝統をもとにしていますが、2011年のアラブの春以降、シリアが内戦状態に陥り、アレッポも戦渦に見舞われました。内戦による軍事衝突や社会的混乱で人々は離散を余儀なくされ、シリア、そしてアレッポの誇る多くの歴史的建造物、すなわち有形の文化遺産が破壊され甚大な被害をこうむる一方で、根付いていた土地を離れ、人々とともに異国へと散っている無形の文化遺産も日々増えています。本書で紹介されている歌はそうした文化的な遺産の一部であり、かの地で愛され長く歌い継がれてきました。それゆえに今この瞬間にも、シリアのどこかで、そして避難先のレバノンやトルコ、ヨルダン、そしてイラク、もしくはドイツやスウェーデンなどで歌われているかもしれません。
 本書のためのサンプルを演奏してくださったアレッポを代表する音楽家ムハンマド・カドリー・ダラール先生も、現在はご家族とともにシリアを離れて暮らしていらっしゃいます。「旧世代の最後の一人」ともいわれてきた先生が、ご家族とともに、また多くの同胞の方々とともにシリアへ、そしてアレッポへと戻り、馴染みの土地で伝統を再建できる日が一日も早く来ることを願ってやみません。

版元から一言

 世界の音楽が誰でも聴けるようになり、アラブの音楽のファンが日本でも増えています。近代の日本の音楽や西欧の音楽とは異なった独特の雰囲気を持つアラブの音楽に魅了されたり耳に残る人も多いでしょう。また、アラブの世界でも様々な音楽が生まれ、多様な聴衆を惹きつけています。
 本書はそうしたアラブ世界、特にシリアやエジプトを中心にした東アラブ地域のアラブ音楽の基礎となる、伝統的な音楽を紹介する本です。伝統的なアラブ音楽といえば、それは旋法音楽です。旋法音楽とはコード進行を伴わない音楽です。そのため、歌や楽曲は西洋音楽のようなハ長調とかイ短調といった分類をしません。旋律のみが重要であるため旋律様式(旋法)と呼ばれ、旋律のスタイルの違いで分類されているのです。また、その旋律のスタイルをもとにした即興演奏が付随するのも特徴的です。
 このような音楽は今日の日本ではあまり馴染みがありません。そこで本書では、まず簡単な旋律の歌を用いて学習し、伝統的なアラブ旋法音楽の特徴を少しずつ体験できるように工夫しました。登場する歌はネット上で聴けるようになっていますので、繰り返し聴いて特徴をつかんでください。外国語の学習と同じで、何度も聴いて、可能ならば口ずさんで歌ってみるとさらに効果があるでしょう。そうすることで各旋法の特徴の一端が徐々にわかるようになり、本書の第4課を読み終わるころには、器楽による初歩的な即興演奏の聴き方のコツもつかめるように配慮しました。
 即興演奏が少しでもわかるようになって、楽しめるようになれば、もうアラブ音楽の「通」と言えるでしょう。繰り返し繰り返し、本書を読みながら聴いていくうちに、あなたもアラブ音楽の「通」になることができるかも。一人で迷わずアラブ音楽のお稽古をするための道しるべとなる本、それが本書です。

著者プロフィール

飯野 りさ(イイノ リサ)

中東地域文化研究(音文化)専攻。東京大学大学院総合文化研究科(博士課程)単位修得満期退学、博士(学術)。外務省専門調査員、東京大学東洋文化研究所特任研究員などを経て、現在、日本学術振興会特別研究員(PD)。アレッポを代表する音楽家ムハンマド・カドリー・ダラール氏に伝承歌謡を師事。著書『アラブ古典音楽の旋法体系:アレッポの歌謡の伝統に基づく旋法名称の記号論的解釈』(2017年、スタイルノート)が、第35回田邉尚雄賞を受賞。趣味はカーヌーンの練習。



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